2017.10.10カテゴリー:印鑑について
「緊急の用があるから今すぐハンコ欲しいんだけど、居ないな…。ちょっと借りよう」
皆さんは、このような経験をされたことはありませんか?
実は、それは法律に違反しているのです。
もしかしたら、他にも何気なくしてしまっていることも法に触れてしまっているかもしれませんね。
今一度、印鑑の使い方を見直してみませんか。
今回は、印鑑にまつわる法律についてお伝えします。
□印鑑にまつわる法律
まずは、冒頭が何の法律に触れていたかについてです。
他人の印鑑をつくったり、不正、無断で使用してしたりすると、印章偽造罪に問われてしまいます。
印章偽造罪は以下の法律によって規定されているのです。
・御璽偽造及び不正使用等に関する規定(刑法第164条)
・公印偽造及び不正使用等に関する規定(刑法第165条)
・公記号及び不正使用等に関する規定(刑法第166条)
・私印偽造及び不正使用等に関する規定(刑法第167条)
・印章偽造罪の未遂罪に関する規定(刑法第168条)
以上の法律で構成された印章偽造罪は、「印章・署名の真正に対する公衆の信用」を保護するために規定されているのです。
自分の名前と違う印鑑を使える状態であれば、印鑑に対する価値は薄れるでしょう。
それに、様々な契約も締結できなくなってしまいます。
そんな状況だと、社会がまったく動かなくなってしまいますよね。
「たかが印鑑」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、されど印鑑です。
軽い気持ちで不正使用してしまって、罪に問われることがないようにしましょう。
次に、それぞれの規定を詳しく見ていきましょう。
□1.刑法第164条の御璽偽造及び不正使用等に関する規定
御璽という言葉に、あまり聞き馴染みが無い方がほとんどでしょう。
この御璽とは、天皇が用いる印鑑の事です。
御璽を用いることで、法律や政令の公布文、条約の批准書を動かすことができます。
つまり、御璽があれば日本を動かせると言っても過言ではないのです。
そんな極めて重要な御璽を偽装した人は2年以上の懲役に処されます。
また、御璽を不正使用したり、偽造された御璽を使用したりした人は2年以下の懲役に処されるのです。
偽造して、何かしらの罪を重ねれば、どんどん懲役は重くなるでしょう。
天皇と言えども、他人は他人です。
他の人の印鑑を偽造しないようにしてください。
□2.刑法第165は公印偽造及び不正使用等に関する規定
公印とは、公務員やその人達が使う印鑑、その署名を指します。
つまり、役場で使われるような印鑑の事です。
それらを偽造した場合、3か月以上5年以下の懲役が科されます。
公印には、行政機関の長である首長の印鑑も該当するため、印鑑の種類を間違えることが無いようにしましょう。
□3 .刑法第166条の公記号偽造及び不正使用等に関する規定
公記号とは、「○○省之印」といった印章や具体的な名前のない検印などを指します。
この公記号を不正使用した際、3年以下の懲役に処されてしまいますよ。
今までにご紹介した3つの規定は、あまり我々に関係ない事ばかりでしたよね。
しかし、これからお伝えする2つの規定は、我々の生活で起こりうることです。
しっかりと確認して、違反することが無いようにしてください。
では、早速見ていきましょう。
□4.刑法第167条の私印偽造及び不正使用等に関する規定
この規定には、次の3つが含まれています。
・他人の印鑑を自分が使う目的で偽造した者
・他人の印鑑を不正に使った者
・偽造された他人の印鑑を使った者
これらに該当した場合、3年以下の懲役に処されます。
勿論、他人の印鑑を勝手に使った場合も同様です。
何かしらの事情で、他の人の印鑑を使う場合、本人の承諾を得なければなりません。
問題が起きた後、「うっかり忘れてた」では済みませんよね。
この規定だけでも、しっかりと頭に入れておいてください。
□5.刑法第168条の印章偽造罪の未遂罪に関する規定
今までの4つの印鑑を使わなくても、使用するための行動をしたことが露見すれば、未遂罪として罰せられます。
自分が使う事のできない印鑑を偽造することが無いようにしてください。
□印章偽造罪について
最後に、印章偽造罪によって、印鑑の価値を保護しなければならない理由についてです。
印章偽造罪が法律に記載されているということは、他の人の印鑑を勝手に使ったり、偽造したりした人達が居るということを表します。
そのような人達がいた理由としては、多くの人が誰でも買える三文判の印鑑を実印として使っていることが挙げられるでしょう。
それならば、特別な技術を必要とせず、印鑑を偽造することができますよね。
もし、そのような人に印鑑を偽造されてしまえば、あなたの財産が奪われてしまいます。
そのような事態にならないためにも、実印の為の印鑑を用意しましょう。
□法律違反以外のリスクについて
ここまでの内容を読んだうえで、「法律違反を防ぐために印鑑を貸してはいけないのはわかったけど、自分とは関係ないな」と思われている方もいるでしょう。
しかし法律以外にも、印鑑を貸し出す際にはリスクがあります。
特に、自分と親しい家族や友人に印鑑を貸してほしいと頼まれた場合には注意が必要です。
親しい人間に印鑑を貸してほしいと頼まれると、相手を信用して貸してしまうケースがあります。
もちろん信頼のおける人であれば、悪用されるリスクは非常に低いかもしれませんが、本当に注意が必要なのは「印鑑を貸した相手が、騙されて印鑑を使ってしまったり、印鑑を盗まれたりするリスク」です。
貸し出した相手に悪意がなくても、印鑑によって何かトラブルが発生してしまった場合、貸し出した相手はあなたへの申し訳なさで苦しむことになります。
自分の信頼する人が悲しい思いをしないためにも、どんなに信頼のおける相手であっても印鑑の貸し借りは避けるようにしましょう。
*具体的な悪用例について
悪用の典型的な例の1つ目が、捨印の悪用です。
捨印は、公式文書や契約書の内容を修正する際に使う印鑑を、あらかじめ欄外に示しておく目的で使われます。
あなたの印鑑が他の人の手元にあると、書類の修正が本人の知らない所でできてしまいます。
例えば「100万円」と記載されている部分に二重線を引き、「1000万円」と訂正したうえで、訂正部分の近くに捨印を押し、「2文字削除、3文字加筆」と書き込めば、印鑑の持ち主の意思で訂正が行われたと見なされます。
悪用例の2つ目が、未完成文書への押印です。
明らかに怪しい書類に押印する人はなかなかいませんが、空白部分のある契約書に押印してしまう人は一定数います。
空白部分の記載は第三者の代理人に委ねられるので、押印時点では記載のなかった項目も、押印があれば本人の許可をもらっているという既成事実ができてしまいます。
そのため、印鑑を押す人は書類や契約書が未完成ではないかを確認する必要があります。
□本人以外の押印は法的に有効なのか?
ここからは、他人が押印した代理印鑑によって法的な有効性が生まれるのかについて解説します。
代理印鑑の有効性について争った裁判は今の時点では存在せず、はっきりと代理押印の有効性を示すことは難しいです。
しかし、基本的に印鑑は本人が所有していると見なされ、他人が押印したとしても、押印が本人の意思を表していると解釈されます。
なぜなら印鑑は本人が大事に保管するのが当然であり、他人が簡単に使用できる状態は想定されていないからです。
押印のある書類は正式な書類として取引が進み、もしトラブルが発生すればその書類が証拠資料として提出されるでしょう。
*会社が代理印鑑を多用している場合について
大規模な企業に多いのが、代理印鑑が日常的に多く使われているケースです。
会社の規模が大きいと押印する書類や契約が増え、意思決定の時短のために代理印鑑を多用するようになる傾向にあります。
特に突然契約を求められる業種だと、意思決定者が近くにいないとタイムラグが生じ、効率が落ちやすくなってしまいます。
そのため、あらかじめ社内規定で代理印鑑を押す人を決めている会社もあります。
なお、電子契約の押印が近年普及してきていますが、こちらも他人がボタンを押すのであれば代理印鑑になります。
そのため、紙の書類での契約同様、あらかじめ社内でルールを統一し、代理で押印できる人を決めておくと良いでしょう。
代理印鑑はトラブル防止の観点からはなるべく避けるべきですが、大規模な会社組織などでは効率の観点から難しいでしょう。
電子契約書の浸透によって、より簡単に代表者が押印できる環境が整ってはきていますが、それでも代理印鑑を使った方が効率が良いケースは多々あるでしょう。
□まとめ
今回は、印鑑にまつわる法律についてご説明しました。
私達は印鑑の存在を軽くとらえてしまいがちですが、印鑑一つで人の人生は大きく変わってしまいます。
しっかりとそのことを頭に入れて、印鑑を扱いましょう。